2001年度卒業生 共同研究 
1、アメリカ大統領選挙の仕組みと問題点
2、ジョン・F・ケネディと大統領選挙
3、アメリカ大統領選挙とキャンペーンマネー
4、2000年アメリカ大統領選挙とメディア
3、アメリカ大統領選挙とキャンペーンマネー
  【大統領選挙運動資金の増大】

 日本の二十五倍の広い国土で、日本の二倍の人工の国民を巻き込んで長期間にわたって繰り広げられる大統領のレースは、やはり大変なお金がかかる。資金不足を理由に立候補の辞退声明を出す候補者も多く、最後まで勝ち残るにはまず資金力がカギだといえる。にもかかわらず、その費用は増大しつづけている。1960年代に入ると、予備選挙を実施する朱州が増え、選挙運動が長期化するようになったことも一つの要因だが、急激に増大した原因はマスメディアへの対策費である。とりわけラジオ、テレビの費用が大きい。

 ラジオが大統領選挙戦に初めて使用されたのは、1924年のことである。また、1952年にテレビが始めて大統領選挙戦の手段として使用され、大統領候補のスポット・コマーシャルが登場したのも同年のことである。それが以後大統領選挙運動の定期番組として定着し、選挙資金急増の最大の要因と化した。


  【連邦運動選挙法と公的助成金制度】

 では、候補者たちは選挙に勝ち抜くための資金をどのように集めているのだろうか。大統領選挙には大きく分けると二つの段階がある。まずは、党内の統一候補を決める予備選挙や党員集会、つまり党大会までのプロセス。次に党大会以降、一人に絞られた各政党の候補者が十一月の投票日まで戦う本選挙もプロセスである。1970年代前半までは19世紀末に工業化が進んだこともあり、各政党およびその候補者は選挙資金を財閥に大きく依存していたが、1970年代に入ってから、共和党のR・ニクソン陣営による大規模で不正な選挙資金集めが問題となり国民各層の批判を浴びたため、選挙資金規正に関する諸法律を集大成した連邦選挙運動法が制定された。また、1972年ウォーターゲート事件(*)を反省に1974年、連邦選挙運動法の中に選挙資金規制条項「寄付に関する規制」「政治資金の公開」「支出に関しての制限」と大統領選挙の公的資金による補助、公営選挙という事を定め、厳しく改正された後も細かい改正が加えられており、選挙全般は連邦選挙委員会(FEC)により統括されている。

 1974年に改正された連邦運動選挙法で取り入れられた公的助成金制度は、金のかかる選挙は弊害が大きいためそれを防ぐために候補に連邦資金を支出して公営化するとともに一般有権者からの献金を小口化して利益誘導を無くすことを目的に制定された。アメリカは、所得税のシステムが日本と違っていて、一般のサラリーマンでも毎年春先に「確定申告」をしなければならない。このとき、申し込み用紙に賛成か反対かというチェック欄があり、賛成のところにマークをつけると、自分の納めた税金から一ドルが自動的に公営選挙と区別基金に回される仕組み(チェック・オフ)になっている。つまりアメリカの大統領選挙は、国民一人ひとり、それも積極的に選挙に参加したいという人たちが、馬券を買って行うようなものといえる。

 前述したように大統領選挙には大きく分けると二つの段階があり、予備選挙は半公営、本選挙は公営で行われる。つまり、予備選挙は半分、本選挙はすべて国民の負担によって行われ、ここで国民から集められた公演選挙特別基金が使われている。

 半公営の予備選挙では、候補者が公的助成の適用を受けるには、一件につき二五〇ドルを越えない個人献金を二〇州以上において最低五千ドル以上、つまり総額で一〇万ドル以上を調達しなければならない。この要件を満たした候補者に対しては、受領した寄付総額に応じて大統領選挙運動基金より助成金が支給される(これをマッチング・ファンド方式と呼ぶ)が、これには、予備選挙の段階で泡沫候補者を排除していくという狙いがある。しかし、公的助成の適用を選択した候補者は一千万ドルの支出制限を超えてはならず、しかも助成金は支出限度の五〇%つまり五〇〇万ドルと上限が設けられている。なお、予備選挙の段階では、支出総額の制限に加えて、州ごとの支出制限もあり、各州の有権者の数を加味した選挙運動費用の支出限度額が設けられている。しかし、予備選挙の支出限度額は、あまり守られていない。限度額を超過した場合、超過分の三〇%を国庫に返却しなければならないという規定があるが、この罰則があまり重たくないために余計守られないようだ。候補者たちはあの手この手で抜け道を考える。例えば「表現の自由」を逆手にとって、企業や個人などがスポンサーとなって、対立候補を非難したり、イメージ・ダウンさせたりするようなテレビCMを打つのがこれにあたる。こうした活動は個人の表現の自由にあたるため、候補者が使った政治資金とは見なされないのだ。これがかなり巨額な抜け道となっている。

 正・副大統領候補を指名する全国党大会への公的助成には、政党の規模によって支給額に差がつけられている。つまり、前回の大統領選挙で一般投票の二五%以上を獲得した大政党に対しては、四〇〇万ドル。二五%以下の一般投票しか獲得できなかった弱小政党に対しては、得票実績などに応じて決定された金額が支給される。なお、全国党大会に対する公的助成金は、党大会開催の費用として格闘の全国委員会に支給されるものなので、それを候補者の利益となるよう使用する事は禁じられている。全国党大会で指名を受けた大政党の正・副大統領候補者には、本選挙の運動費用として、四千万ドルの助成金が支給される。この助成金を受けた候補者は、法廷限度額を超える支出や一切の私的な寄附が禁じられている。また、その他の弱小政党の候補者については、前回の選挙時の得票実績に応じた金額が支給される。この公的助成金の額は、インフレ調整を加味して増額されている。

 選挙規定に違反しているかどうかをチェックし、選挙中のお金の出入りを監視するのが「コモン・コーズ」という市民グループである。コモン・コーズは、議会の会期(一会期二年)ごとに報告書「マネー・パワー・アンド・ポリティクス」を出している。この報告書には、各候補が届け出た選挙運動の収支の明細と各政治活動委員会(PAC:政治献金を受ける窓口で、献金はいったんここを通して候補者に割り振られる)の献金状況を突き合わせた報告が載っている。これでどの議員がどういう団体から、いつ、いくら、お金を受け取ったか、つまりどういう利益とその議員が結びついているかが明らかにされる。企業別にも集計を出しているため、どの企業が誰に政治時金をばらまいたかということも分かる。コモン・コーズは、納税者意識の強いアメリカならではの組織といえるだろう。

 このように大統領選挙運動の原資には、納税者が所得税申告の際に各自の税金から一ドルを任意に基金へ払い込んで積み立てられた分があてられている。納税者の基金参加率は平均が二七・五二%と低率に留まっているが、原資積み立ては四年、また、公的助成金の支給額が四年に一度という事もあって、収支のバランスは何とか維持さているようである。


  【草の根の資金集め

 一般的に、選挙資金の源としては、
@大企業、利益団体、労働組合、および資産家からの献金(三〇%)
A候補者自身の資産
B一般大衆からの小口献金(六〇%)

が挙げられるが、個人が政治献金をする時にも上限枠があり、一回の選挙につき、一人の候補者に千ドル以上の献金をしてはいけない。政党に対しては、年間二万ドルまでの政治献金ができる。このほか、PAC(政治活動委員会)には、年間五千ドルまで献金ができる。さらに、個人、政党、PACへの三つの政治献金の合計が二万五千ドルを超えてはいけないという規定もある。一方で政党が受ける政治献金の額には上限枠がなく、いくらでも集められるが、例えば民主党が大変なお金を集めたからといってそれを大統領選挙に全部つぎ込めるわけではない。

 各候補が政治資金を集める手段だが、個人からの場合は、まずダイレクト・メールを送る方法がある。ダイレクト・メールは、候補者の紹介と小口の寄附を依頼する手紙、それに返信用の封筒が一緒になったものが多い。これは大統領選挙に限ったことではなく、連邦の上院議員や下院議員、州議会の上院議員や下院議員も同じ方法で政治資金を集める。候補者陣営はこのダイレクト・メールをできるだけ多くの国民に送り、寄附の意思のある人から小切手を送ってもらう。ダイレクト・メールによる集金は、パーソナル・チェックに限られている。現金でもいいが、現金の場合は連邦から寄附と同額の補助が出るマッチング・ファンドの対象にはならない。これは法律で定められている。応援したい候補者がいる人は、小切手に自分が献金したい金額と受け取り主を書き込み、自分の名前のサインと希望であれば、候補者が唱える政策について自分の意見を簡単に表明した手紙を添えて返信用の封筒に入れ、送り返すことができる。ダイレクト・メールの送り先リストは、企業の宣伝用ダイレクト・メールなどに利用されているデータベースを使う事もある。有名なデータベースに「ビッグ・ブラザー」というのがあり、それには国民一人ひとりの学歴や年齢、車の趣味から、これまでどんな政治団体に入っていたかなど極めて多くの情報がインプットされている。結局、どれだけ多くの国民の名前が載ったリストを持っているかが勝敗を分ける事になるが、百人送って一人か二人から寄附が来るのが普通で、平均的な寄附額は一人30ドルぐらいなので、ダイレクト・メールを発送する労力、封筒代、切手代などを考えると、そんなに楽な資金集めではない。

 候補者の、もう一つの政治資金集めの方法はパーティーである。上流階級用で会費が高く、ホテルなどの会場を借りて少人数で浸し区候補者を囲みながら大口の献金を募るパーティーから、もっと庶民向けのコーラやピザを用意して、晴れた日の公演などで気楽に楽しむパーティーまで、様々なスタイルがある。庶民向けのパーティーは地元のボランティアによって運営されることが多く、一人数ドルの費用を決め、会費とパーティー費用の差額が寄付金になる。この他、割合としては大きくないが、政治資金を集める事を職業にしている“集金のプロフェッショナル”を使う方法もある。彼らは電話を掛けまくることで個人的に政治献金を要請している。


  【PACとソフトマネー】

 PACとは(Political Action Committee)と呼ばれる政治団体のことで、より正確にいえば、企業、労働組合、業界団体、イデオロギー団体などが特定の政治家を支援するために組織した政治資金の「再配分機関」で、幅広く個々人から寄付金を募り、支持する議員、候補者または政党へと献金する資金調達のための政治団体である。前述したように、政治資金の額は年々急増する一方であり、その中でも公営の放送制度がなく、国土が広いアメリカでは、テレビのスポットやコマーシャルを中心としたメディアへの費用が莫大にかかる。

 PAC<は献金する総額に関して事実上規制がなく、豊富な資金を背景に、いまやアメリカ政治に大きな影響力を及ぼしており、今日では、政治資金の提供や独自の活動を通じて選挙運動や立法過程にも介入する一種の「圧力団体」と化している。PACが活性化し、増大したのは1970年代に選挙資金を規制する「連邦選挙運動法」が制定されて、これまで禁止されていた直接献金を緩和されてからだ。ここでPACの数が増大するとともに、政治―選挙資金のかなりの部分を企業、労働組合、利益団体およびイデオロギー集団が設立するPAC<の献金に依存するようになったこととその際に、献金母体側が政治的見返りを要求することが問題となっている。

 PACとともに近年、連邦選挙運動法のもとでの主な抜け道はソフト・マネーと呼ばれるようになっている。ソフト・マネーとは、企業、労組、および富裕な個人が政党活動の支援を名目に政党に献金した“資金”を大統領と連邦議会への候補者のために流用するものである。ソフト・マネーは近年大統領選挙運動に対するいわゆる「公的助成制度」との兼ね合いもあって、それは一部の「特権的」利益集団への便宜供与を図ることになるので、これを厳しく規制すべきであるとして、多くの改革案が連邦議会に提出されている。しかし他方で、ソフト・マネーは本来「市民」が選挙過程へ参加することを奨励するものであって、政党組織の活性化を促進するものであるから容認するべきだという意見もある。

 アメリカでは、いわゆる選挙運動費用と政治資金とを区別しておらず、両者を一括して政治資金として取り扱っているのが大きな特色である。そして、現在連邦選挙に関わるすべての政治資金を規制しているのは、1971年に制定された連邦選挙運動法である、近年問題とされているのは、

@政治資金の支出増大に歯止めがかからない
A政治行動委員会による献金の割合が急増している
B連邦法の規制をすり抜けて集める枠外の資金=ソフト・マネー等が増えていることである。

 一般に「ハード・マネー」と称されているのは、連邦法の管理化の下で調達・支出し、これを公開する資金の事。これに対して、連邦法の規制の枠外から調達するものの、しかし連邦選挙に影響する意図をもって選挙活動に支出される資金のことを「ソフト・マネー」という。法的にはソフト・マネーの献金は州および地方の政党活動のために使用されるべきものだが、現実には、その資金は州および地方の候補者と共同して連邦候補者を支持する政治活動にも活用されている。ソフト・マネーが選挙の過程で大きな影響を有するようになったのは1979年に改正された連邦選挙運動法で、連邦の献金および支出制限から州および地方政党の様々な活動を除外され、活動に必要な資金を無制限に支出する事が認められてからである。ソフト・マネーによる資金は、大統領や連邦議会候補者を支援する選挙運動のためのテレビコマーシャルにその大半が費やされているという。

 アメリカでは大統領選挙は連邦議員選挙や州議会議員選挙など州レベル以下の選挙と同一日に一斉に行われるので、地方政党の活動が果たして連邦選挙の候補者のためのものなのか、州レベルの選挙の候補者のために行っているのかなど、区別することや金額を正確に確定する事が現実に困難である。なぜなら、ソフト・マネーによる献金は全国政党に対してばかりでなく、無数の州および地方の政党にも行われるものだからである。しかもそのいずれもがこれまでワシントンDCにある連邦選挙委員会に報告されていなかったからである。もう一つの問題として、ソフト・マネーによる献金の主役となってきた大企業、大労働組合および富裕な個人は連邦政府との特権的結びつきも指摘されるようになっていることも挙げられる。

 (*)共和党の正式の機関である全国委員会とは別にミッチェル前司法長官を委員長にして私的に組織された「ニクソン大統領再選委員会」が、再選のための資金集めや様々な裏工作を行っているうちに。1972年にワシントンD.C.のウォーターゲートビルの中にあった相手の民主党全国委員会のオフィスに工作員7名を忍び込ませ、電話に盗聴器をつけたり、文書を盗み出したりさせたことが現行犯で摘発された事を端に発した。その時つかまった男たちが大量に持っていた百ドル紙幣の出所を探るとニクソン大統領自身が揉み消しを図った事が判明し、辞任を余儀なくされたのであった。つまり、大量の資金を集めあらゆる手段を用いて勝とうとする執念が生んだ犯罪といえる。この事件を契機として選挙資金の明朗化が進んだ。


  【感想】

 各候補者の選挙資金集めの方法(小さなパーティーを開いて集めたり、確定申告の際に意思に応じて寄附したりするなど)は、人民の人民による人民のための政治を思わせるやり方で、国民の政治に対する関心はすごいものだと思った。この点は日本も見習う点だと思うが、メディアを通じての選挙活動について、個人がメディアを通じてのアピールの場を得るためにお金を費やさなくても済むように、国がその場を提供してはどうかと思う。そうすれば、候補者の選挙運動へ費やす費用は少し減るのではないだろうか。また、ソフト・マネーやPACの問題についても、現在あいまいになっている連邦選挙運動法を見直し対応していくべきだと思う。


  −参考文献−

   『最高権力をつかんだ男たち アメリカ大統領』    宇佐美滋  講談社  1988年
   『アメリカの政治資金 規制と実体』    藤本一美  けい草書房  1999年   詳しく
4、2000年アメリカ大統領選挙とメディア