量子力学と行列力学
量子力学は行列力学と呼ばれることがありますが、このつながりについて初学者に説明する本はほとんど見かけません。ここでは量子力学で最初に学ぶ位置 x を用いた演算子や固有値方程式が行列の形で表せることを説明します。
目次
Schrödinger 方程式
時間に定常的な Schrödinger 方程式 ˆH(x)ψ(x)=Eψ(x) を考えます。ここで、ハミルトニアンはどんなものでも構いません。この方程式を満たす固有値 Ei とそれに対応する固有関数 ψ(i) を求めることがこの問題のゴールです。
正規直交関数系
ここで、正規直交関数系 {φi(x)|i=1,2,…,n} を考えます。 正規直交関数系なので、これらは以下の性質を持ちます。 ∫dx φ∗i(x)φj(x)=δi,j. また、{φi(x)} は完全系であるとします。つまり、{φi(x)} を用いて任意の関数を展開できる (簡単のために有限の i=1,2,…,n としているが細かいことは置いておく)。 つまり、 ψ(x)=n∑j=1cjφj(x) と展開できる。
この展開係数 {ci} は上式に φ∗i(x) をかけて x で積分することで得られる。 ∫dx φ∗i(x)ψ(x)=n∑j=1cj∫dx φ∗i(x)φj(x)=n∑j=1cjδi,j⇒ ci=∫dx φ∗i(x)ψ(x).
Schrödinger 方程式の行列化
元の Schrödinger 方程式の ψ(x) を {φi} で展開して、左から φ∗i(x) をかけて、x で積分する。 ∫dx φ∗i(x)ˆH(x)n∑j=1cjφj(x)=∫dx φ∗i(x)En∑j=1cjφj(x)n∑j=1cj∫dx φ∗i(x)ˆH(x)φj(x)=En∑j=1cj∫dx φ∗i(x)φj(x) ⇒ n∑j=1Hi,jcj=Eci. ここで、 Hi,j:=∫dx φ∗i(x)ˆH(x)φj(x) とおいた。x で積分しているので、左辺はすでに x に依存しないスカラーとなる。
先ほどの最後の式を見ると、行列 H_ を H_=(H1,1H1,2⋯H1,nH2,1H2,2⋯H2,n⋮⋮⋱⋮Hn,1Hn,2⋯Hn,n) と定義すし、 列ベクトル →c を →c=(c1c2⋮cn) と定義すると、先の ∑nj=1Hi,jcj=Eci はこの行列とベクトルの積の i 行目の等式に対応する。 つまり、Schrödinger 方程式は以下の行列の方程式になる。 H_ →c=E →c. これは、線形代数で習った固有値問題そのものである。
まとめ
完全系をなす正規直交関数系を準備する。
i 番目と j 番目の関数でハミルトニアンをはさんで x で積分したものを (i,j) 成分とする行列を作る。
Hi,j=∫dx φ∗i(x)ˆH(x)φj(x),(H_)i,j=Hi,j.
この行列について、固有値固有ベクトルを求める。
H_ →c=E →c.
元の x の関数は固有ベクトル →c の各成分を係数にして展開式として得られる。
ψ(x)=n∑j=1cjφj(x).
* 上では n 個の固有関数で完全系を作るような正規直交関数系を仮定したが、ほとんどの場合無限個の関数のセットが必要。この次元と固有値の数が一致する。