最終更新日:2006年4月26日 記事のリストををつくりました

物理学会でのシンポジウム「『ニセ科学』とどう向き合っていくか?」について

2006年3月に愛媛大学・松山大学で開催された第六十一回物理学会年次大会において、「ニセ科学」をテーマにしたシンポジウムをおこないました。 シンポジウムには、三百人を越える方が参加され、きわめて有益で活発な議論がおこなわれました。

物理学会に送ったシンポジウムの報告

科学の装いをしているものの全くの誤りである「ニセ科学」の問題を議論する企画である。ジャーナリストや人文系研究者などの非会員を含む三百数十人が会場を埋め尽くし、立ち見もでる大盛況だった。田崎がシンポジウムの趣旨を説明したあと、菊池が「マイナスイオン」「水からの伝言」を例に、現代の「ニセ科学」の姿を紹介し、問題点や批判に関わる論点を整理した。天羽は、web を通じた実際の批判活動を詳細に紹介し、批判に伴うリスクや批判者が維持すべき姿勢について述べた。さいごに池内が、より広い視点から、社会に不合理性がはびこる要因を議論し、懐疑的な精神を社会に伝えることの重要性を強調した。討論では、個々の「ニセ科学」を糾弾することよりも、科学者としてそれらにどのように接していけばよいかという点を中心に、活発な意見交換が行なわれた。様々な「ニセ科学」に接した実例の報告もあった。論点は、研究者倫理や教育にもおよび、問題の深さを痛感させられた。具体的な批判の体制を議論するのは今後の課題だが、物理と社会にかかわる問題について大学院生を含む一般の会員が真摯に議論しあえる機会がもてたことは、本シンポジウムの大きな意義だったと考える。詳細は http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/events/JPSsympo0306.html を参照。
(2006 年 4 月 13 日、田崎晴明)

プログラムと、概要・講演資料へのリンク

2006 年 3 月 30 日(学会最終日)、午前 9 時から

はじめに --- 科学と「ニセ科学」をめぐる風景
田崎晴明 10分(質疑なし)
概要へのリンク講演資料 (pdf) へのリンク

「ニセ科学」入門
菊池誠 30分(質疑10分)
概要へのリンク講演資料 (pdf) へのリンク

「水商売ウォッチング」から見えたもの
天羽優子 30分(質疑10分)
概要へのリンク講演資料 (pdf) へのリンク

休憩10分

「ニセ科学」の社会的要因
池内了 30分(質疑10分)
概要へのリンク

討論と全体への質疑応答 30分

シンポジウムについての記事など


以下は、シンポジウムの開催に先立って公開した文書です。

シンポジウムの案内

ここで「ニセ科学」とは、(科学と擬似科学の境界付近にある位置づけの微妙な営みのことではなく)科学的に誤り(ないしは無意味)であることが明白であるにもかかわらず表面上は科学を装っている営みを指します。 「ニセ科学」は、物理学の研究にはほとんど何の影響もないでしょうが、広い意味での科学教育を考えたとき強い影響力をもつおそれがあると考えています。

このシンポジウムでは、いくつかの典型的な「ニセ科学」の事例を紹介していただきながら、私たち物理学者が「ニセ科学」とどう向き合っていけばよいのかを考えるきっかけを作りたいと思っています。 また、どの程度のものをどこまで批判すべきか、批判するとしたらどういう形でおこなうべきか、などの点も含めて議論したいと考えています。 多くの方のご参加を歓迎いたします(物理学会会員の以外の方も参加の方法については、このページの末尾をごらんください)。

ただし、新聞報道などの影響もあり、このシンポジウムがわれわれの当初の予想をはるかに越えて話題になっているようです。 会場は三百人程度収容の中規模のものですので、場合によっては、会場に入れない方がでるかもしれません。 ご了承ください。

田崎晴明(シンポジウム提案者)

「ニセ科学」に関連する web 上の参考資料

テーマ

「ニセ科学」とどう向き合っていくか? (「物理と社会」分科シンポジウム)

提案趣旨(物理学会に提出したもの)

科学と非科学の境界がどこにあるかというのは、長い論争の対象となっている難問である。この問いには決定的な答はないのであるろうが、いずれにせよ、このシンポジウムのテーマはそのような「線引き問題」ではない。

科学の成果の最良の部分がほとんど疑う余地なく真実に近いのに対応し、一部の「科学」を装った言説はほとんど疑う余地なく何の根拠もないニセモノである。そういった「ニセ科学」は、多くの場合、営利活動と結びついており、科学的であると思わせるような言説を用いることで、おそらくは意図的に、科学に無知な人々を欺こうとしているように見える。大手電機メーカーやマスコミを巻き込んだ「マイナスイオン」なるものをめぐる騒動は記憶に新しい。また近年では、たとえば「水に優しい言葉をかけると美しい結晶ができる」とする、いわゆる「水からの伝言」が、小学校の道徳教育の現場にまで使われるといった事態がおきており、「ニセ科学」の社会的影響力は相当に大きなものになっている。

このシンポジウムでは、そういった「ニセ科学」にターゲットをしぼり、いくつかの事例を紹介し、またわれわれ物理学者が「ニセ科学」といかに向き合うべきかを議論する。

シンポジウムの目的は単なる「ニセ科学」叩きではない。たとえば、「マイナスイオン」はきちんとした定義すらされておらず、我々物理学者にとってはナンセンスな言説にすぎない。しかし、「マイナスイオン」を信じた人々はあれを「科学」として受け取ったからこそ信じたのである。その点で、単なるオカルトのたぐいとは本質的に異なることを理解しなくてはならない。「ニセ科学」は単に科学の仮面をかぶっているだけでなく、一般社会に「科学」として認知されているのである。下世話に言うなら、「科学」と「ニセ科学」とは同じ市場を奪い合う関係にある。そのような「ニセ科学」といかに直面し、それらにいかに対応するかということは、科学を学び、研究し、教育する者にとって、重要な意味をもっている。なぜ(理科系の教育を受けた人までを含む)多くの人々が「ニセ科学」に引き寄せられるかを考えることで、科学の教育、啓蒙、研究のあり方についても多くを学ぶことができるはずである。

「ニセ科学」を正しく批判できるのは科学者だけである。そのような批判を展開していくことは、科学者が社会に対して果たすべき重要な責任のひとつであろう。多くの「ニセ科学」の主張が主として物理現象にかかわるものであることを鑑みるなら、中でも物理学者が果たすべき役割は大きいはずである。

「ニセ科学」の現状を知り、それらにどのように向かい合うべきかを考えることは、広く物理学会会員全般にとってきわめて有益であると考え、このシンポジウムを提案する。

物理学会会員でない方の参加について

物理学会には、参加登録をして参加登録料を払っていただければ、どなたでも参加できます。

登録料は、一般の非会員は 7,000 円、学生の非会員は 5,000 円です。 参加登録されれば、会期のあいだすべての講演を聴き議論に参加することができます。 参加登録は愛媛大学内(総合情報メディアセンター入口)の総合受付でおこなってください。

「ニセ科学」シンポジウムのみにご参加になる場合にも、残念ながら、上のような参加登録が必要です。 当日は朝の8時半から総合受付が開いているそうなので、朝一番に登録してからでもシンポジウムには間に合うだろうと思います(ただし、新聞報道のなどの影響で会場が混み合う可能性はありますのでご注意ください)。 あるいは、前日までに登録をすませておけば確実でしょう。


言うまでもないことかもしれませんが、私の書いたページの内容に興味を持って下さった方がご自分のページから私のページのいずれかへリンクして下さる際には、特に私にお断りいただく必要はありません。
田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
田崎晴明ホームページ

hal.tasaki@gakushuin.ac.jp