「テロリズム」とは何か。これを知らずして、テロに対する有効な対策を得る事はできない。平和主義を掲げる日本が、いまテロリストに狙われている。オウム真理教やペルー日本大使公邸占拠事件などがその例といえる。また、昨年暮れに逮捕された重信房子の日本赤軍は、日本が生んだ初めての国際テロ集団といわれている。犯罪でもなく、戦争でもないこのテロは、国際という舞台で何を目的としているのか。それに対する対策はどのようなものがあるのか。第1章で「テロリズムとは何か」を提議し、「どのようなテロが存在しているのか」を検証しようと思う。そして第2章で「各国のテロ対策」をあげ、最後第3章で「平和主義日本とテロリズム」としてまとめてみようと思う。
【テロリズムとは何か】
*語源・・・テロリズムという言葉がはじめて使用されたのは、1795年のフランス革命といわれている。絶対専制君主制の政治体制のもとで、君主が民衆に恐怖を与え統治してきた政治がフランス革命で初めて、民衆が支配階級者に対して恐怖を与えた。 ‘terreo’という語源には、
@恐れさせる、不安にする、驚かす A脅して追い払う、脅してやめさせる
という意味がある。このことから、テロには何らかの動機と目的が存在する事がわかる。つまり、テロリストたちは「テロ」という行為を起こす以前の現状に対して強い恐怖心や野心を持ち、状況を変えるという目的があるということだ。
【目的別分類】
ここで、どのようなテロが存在していて、そのテロ組織の目的は何か、目的別に分類してみた。
@民族解放テロ・・・これは文字通り抑圧されている民族や集団、つまり政治的・社会的弱者によって構成され、抑圧しているものに対して行う行為。
(例)パレスチナ解放機構(PLO)、アイルランド共和国軍(IRA)クルド労働者(PKK)モロ・イスラ
ーム解放戦線(MILF)など
A国家テロ・・・国家がテロを支援する場合を指す。外交における目標達成のためにテロ組織に対して資金・武器・情報などを提供する。政治的な駆け引きとして使われる事が多い。
B国際テロ・・・テロ組織の活動が国境を越えて展開される場合を指す。共産主義崩壊後に生き残りをかけた極左グループが母体となって連帯運動をする。
(例)日本赤軍(JRA)、ドイツ赤軍派(RAF)、アクション・ディレクト(AD)
C思想グループ・・・思想的背景から組織される集団。どこまでが宗教でどこまでが政治組織なのかという境界線が見えにくいため取締りが困難。
(例)オウム真理教、イスラーム原理主義組織、キリスト教原理主義組織
【分類と検証】
@モデルT
A(テロリスト)がある事項に非常な恐怖を抱き、その原因となるBを脅す。
(例)ケニア米国大使館とタンザニア米国大使館爆破事件
AモデルU
原因となっているBではなく民衆に恐怖を与え、Bの原因を取り除く。
(例)シカリオイのテロ、キプロスのテロ、無差別テロ
BモデルU−2
応用モデル。民衆ではなく、国際世論に働きかける。 例:イスラエル独立テロ
CモデルU−3
応用モデル。民衆ではなく、第三国の市民に置き換える。期待するのは第三国の圧力。
(例)パレスチナ解放人民戦線(PFLP)、トゥパク・アマル革命運動(MRTA)
DモデルV
このモデルのねらいは、支配者(B)が民衆を殺害するように工作する事。それを大きく宣伝し、国際世論に訴える。テロリストという弱者が、支配者という強者に対して勝利を得るには、国際世論による圧力が必要なのである。
【テロリズムの法則】
ここで、3つの法則が見えてくる。
@心の操作・・・恐怖という手段を使い直接あるいは、間接的に国際世論の感心を獲得し、利用し、そして敵に圧力をかける事によって目標を達成しようとする。この国際世論を操作するのは宣伝(プロパガンダ)である。「心の操作」こそ、テロリズムの方法の核心とも言える。(このためテロは、宗教と容易に結びつく。)
A効率の追求・・・テロの成功のためには、小さな力でいかに大きな恐怖を与えられるかにある。秘匿をたてに緻密な計画が立てられている。皮肉な事に、現代のメディアの発達・グローバル化が「効率の追求」の手助けをしているといえる。
B交換の法則・・・テロリズムとは、安全と政策の変更とが交付を媒介として交換されるシステムである。一方的な交換条件であるが、その交換率は恐怖の大小による。それを左右するのは、マスコミの力が大きい。
【各国のテロ対策】
@アメリカ
<組織>
・テロ対策企画課 ・国務省のテロ対策調整官室
・国防省特殊作戦 ・低規模紛争局のテロ対策課
・司法省連邦捜査局(FBI)国家安全部の国際テロ捜査課及び国内テロ捜査
<特殊部隊>
・陸軍の「デルタフォース(DELTA FORCE)」 ・FBIの「人質救出部隊(HRT)」
・主要自治体警察の「特殊武装戦術部隊(SWAT)」
<法制>
・「国際テロ対策法」(1984年) ・「外交官等の防護及び反テロ法」(1986年)
・「反テロ及び効果的死刑法」(1996年)
Aイギリス
<組織>
・内務省組織犯罪 ・国際犯罪局テロ警護部 ・保安庁(SS)
<特殊部隊>
・軍の「陸軍特殊任務部隊(SAS)」
<法制>
・「テロ防止法」の改正(1996年)
Bフランス
<組織>
・内務省国家警察総局(DGPN)の国土監視局(DST)テロ対策課
・内務省国家警察総局長直属のテロ対策調整室(UCLAT)
・テロ対策省庁間会議(CILAT)
<特殊部隊>
・内務省国家警察総局の「国家警察特別介入部隊(RAID)」
・国防省の国家憲兵隊の「憲兵隊治安介入部隊(GIGN)」
<法制>
・刑法及び刑事訴訟法の改正(1996年)
Cイタリア
<組織>
・内務省情報局(SISDE)テロ対策部 ・国防省情報局(SISMI)テロ対策部
・国務省国家警察総局公安局(DCPP)のテロ対策部
・軍警察(カラビニエーリ)の特殊作戦部隊(ROS)
<特殊部隊>
・内務省国家警察総局公安局の「治安作戦中央部隊(NOCS)」
・軍警察の「特殊介入部隊(GIS)」
<法制>
・「公安統一法典」(1926年) ・「公共秩序維持法」(1975年)
・「重大犯罪防止法」(1978年) ・「治安維持緊急措置法」(1980年)
Dドイツ
<組織>
・連邦内務省警察局及び同省公安局のテロ対策担当課
<特殊部隊>
・連邦内務省の国境警備隊(BGS)西部方面本部の「第九国境警備隊(GSG9)」
・州警察内の「特殊部隊(SEK)」
<法制>
・「刑法、刑事訴訟法その他の法律改正のための法律」(1994年)
・刑法及び刑事訴訟法の改正(1974年〜1978年)