茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。
異常なペースで仕事をする状態は未だに維持している。 一つの仕事が終わると即座に次を始めるというのが次第に快感になっていて、ちょっとアレなわけだが、体は十分に健康なのでご心配なきよう。
江沢先生の『ボーアの原子模型:革命からの百年』は本当に面白かった。「正解」を知った後で、当時の歴史をこうやって振り返ってもらうと、文字通り、身震いするほど面白い。 思わず「それは賢い」などとつぶやきそうになるが、実際、会場からも「ううむ」「なるほど」みたいな感嘆の声が何度もおきる。
しかし、江沢先生なら当然のことだが、時間配分のことは気にされていないので、スライドをまだまだたくさん残したままで時間切れ。江沢先生のお話を聞くなら、終わりの時間を決めるのは野暮というもの。 学習院で現役の頃は、学期末になると、量子力学の講義の「補講」をされるのだが、教室を一日確保して、朝から夕方遅くまでずっと講義するという無茶苦茶な補講だった。
今日のスライドをもとにエンドレスで話を聴く会を開くことを画策中なう。
つい、江沢先生が停年を迎えた日の日記(2003/3/31)を読み返してしまった。十年以上前のことだ。
そうそう。 今日の講演の中で、江沢先生が(ボーアが原子模型を提唱した)1913 年に何があったかということを紹介されていて、その中に日本で護憲運動が盛り上がったという項目があった。 それに関連して、先生が、これはまさに今やるべきこと、講演会などやっていないで国会に抗議に行きましょうとおっしゃったのも、彼らしくて印象的だった。 実際、(ぼくが尊敬する)参加者の一人は、講演会の後に国会に行くとのことだった。 (ぼくは、学生と約束があったので、また目白に戻った。)
今日は明らかに失速している。 こういうときは無理をせず休んだほうが復調が早いことも学んでいる。
早稲田大学高等研究所 Top Runners' Lecture Collection of Science 第 6 回
孤立量子系における統計力学の新展開
11 月 25 日(月)15:00〜17:00 早稲田大学,西早稲田キャンパス 55 号館 S 棟,第 3 会議室
田崎晴明(学習院大学),出口哲生(お茶の水女子大学)
門内さんのお誘いで,早稲田で,出口さんといっしょにセミナーをします.
孤立量子系での平衡状態の表現と平衡への緩和の話です.
ここのところ,色々なところで話しているけど,着々と進化しているつもり(プレゼンも,中身も(←中身の進歩は全て原のおかげ)).
持ち時間が 1 時間しかないので,じっくりと中身を話す普通のセミナーはできないですね.
3 分の 2 くらいを全般的なレビューにして,最後の 3 分の 1 くらいで原が証明してくれた新しい定理(愛称 your-coffee-is-no-longer-hot-after-a-milli-second-theorem)のことが話せればいいかなと構想中.
ぼくは、珍しく、後半で時間不足になり、いくつかのスライドをスキップするという見苦しいことをしてしまった。 セミナーのつもりで時間についてはおおらかに考えていたのだが、わりときっちりやりたいという雰囲気だったので、失敗してしまった。反省します。
ある種のメッセージは伝わったと期待するけれど、どうだろうか。 何人かの人との議論は有益だった。
それでも、11 月の末に内輪で話す場があったので、その機会に、公開しているものに少しだけ手をいれた。
一応、整理しておくと、ぼくの放射線関連の情報発信は、
この時期の講演決定は明らかに遅すぎるのだが、実は、ある人が話す予定でシンポジウムの計画が進んでいたのだが、どうしようもない事情で(同じ人が、同じ分科の複数のシンポジウムでは講演できないというルールに抵触した)その人が登壇できないことがわかり、ぼくに依頼が来たのだ。 その人の代打というには、ぼくは余りに貧弱であり、これはほとんど罰ゲームのレベルだと正直に思う。 しかし、他に代打で話せそうな人がいないのも事実で、この期に及んでせっかくのシンポジウムの企画が崩れるのを見過ごすわけにもいかず、苦しい思いで承諾した。 純粋の物理のシンポジウムであれば、自分が最適の講演者ではない、あるいは、そのテーマで話すの気が向かないと思えば、躊躇なく断るのだが(←わがままだねえ)、今回のようなものはやはり事情が違う。 基本的に重苦しい気持なのだが、できるかぎりの話をしようと思っている。
ややや。すでに 23 日である。 年内の大学の講義は先週で終わった。
先週は、定番の講義の他に、年に一回だけのオムニバス講義『現代科学』の担当もまわってきた。 通年の講義の最終回が私である。うむ、これは正しい人選であろう。
『現代科学』は人文系を含む学生のための一般教養の講義で、ぼくはこれまで色々なテーマについて話して来た。 ただ、2011 年度と 2012 年度には、自分の趣味に近い物理の話ではなく、放射線や原子力発電についての基礎的な講義をしたのだ。 やっぱり、科学に興味をもつ若者には、そういう話を知っていてほしいと素直に思ったから。 この科目のために用意した長目のプレゼンの素材が、その後の一連の放射線についての講演の下敷きにもなったのである。
しかし、もうそろそろ平常運転に復帰する頃かもしれない --- というわけで、今回は、得意なネタの一つである「原子の発見とブラウン運動」について話した。 原子・分子の存在をめぐる 19 世紀終盤の論争を紹介し、それから、アインシュタインのブラウン運動の理論の「前半」の本質を丁寧に解説するという趣向。 自分で(喫茶店でコインを投げるなどして)ランダムウォークを生成するという宿題もついている。
とはいえ、やっぱり 2011 年 3 月を経ている以上、これまでと同じにはできない。 最後に 10 分くらいの時間を確保して、「科学とは、人間とは」という(めたくたに広い)テーマの話もした。実は、この部分のスライドは 2011 年 3 月の後に作ったものだ。さらに、福島でおこったことが如何に不条理かということにも(ごく簡単に)触れた。
田崎晴明 + 田崎眞理子
リカ先生の 10 分サイエンス (42) 科学は「非人間的」なの?
小学校の新米先生のリカちゃんと(おそらく)物理学者の「博士」との対話形式で綴ったシリーズ物の一つです。タイトルのとおり、科学と人間の関わりについて博士が本気で語っているという、ちょっと特別な会ですね。最後はページがなくなっていささか急ぎすぎかな。
RikaTan(理科の探検)2011 年 6 月号所収
田崎晴明をどうぞ。 今回の講義よりはずっと本格的だけれど、基本的には、理系の大学一年生くらいの知識があれば「微小粒子がもにょもにょとブラウン運動する様子を見ると、原子の個数が数えられる」という、アインシュタインのぶっとんだ発想の本質が理解できると思う。
ブラウン運動と非平衡統計力学
かなりの能率で働き続けているのだが、まだ終わらない。
でも、終わる。
いや、終わらせる。
数理物理・物性基礎セミナー(第 31 回)
日時:2013 年 12 月 14 日(土)14:00 〜 17:30
場所: お茶の水女子大学理学部1号館2階201室
竹内一将「非平衡臨界現象の理論と液晶乱流による実験検証」
ついに、ぼくが敬愛する若き友人の一人、竹内さんが登場。
国際統計物理学若手賞に輝いたことからもわかるように、研究業績は既に一流。もちろん、それに甘んじることなく、どんどん新しい領域を切り拓いている。
主業績は実験だけれど理論の理解も深い。
おまけに、講演の明快さ、面白さ、そして、元気さではおそらく国内で竹内さんの右に出る人はいないだろう(ぼくは、国際会議で質疑のときに "Beautiful, as always" と激賛したのだ(10/26))。
万難を排して聴かれることをおすすめします!
やたら宣伝したけれど、期待を裏切らない素晴らしいセミナーだった。
研究会や国際会議のように時間が限られている場での竹内さんの発表は、構成と時間配分を完璧に計算した見事なショーのような趣(おもむき)がある。 今回はたっぷりと時間があるセミナーなので、まったく違う顔を見せてくれた。
前半の理論パートでは、敢えて時間をかけて場の理論的な表現を丁寧に説明することで、rapidity symmetry というのが如何に非自明で、また、絶大な威力を持っているかを強く印象づけてくれた。 特に、DP (directed percolation) では、この対称性は自明に見えるのだが、一般のモデルでも場の理論では同じ対称性が浮かび上がるところは、数理的な頭を心地よく刺激してくれる。
そして、後半の実験パートでは、実験系の丁寧な説明(←現物も見たことがあるのだけれど、ようやくきちんと理解した)から始まって、着々と結果を積み上げて、DP のクラスに属する臨界現象を見せてくれる。 そして、rapidity symmetry を実験でも見るべく、欠陥を局所的に生成する技術を竹内さんがゼロから開発していき、ついに、みごとに対称性を実験で見たところは圧巻。 なんというか、一生懸命に聴いていて、思わず涙が出そうになってしまった。
臨界現象と物理教育の両方についてプロを自任する立場から言えば、前半のプレゼンにはちょっと改善の余地があったかもしれない。 特に、スケーリング則などに慣れていない最近の若い人たちにはハードルが高かったかなあ。 しかし、一人の科学者としては、本当に心から楽しいセミナーだった。 競争心とかそういうのとはまったく別に、「ああ、俺もいい仕事しなきゃ」と素直に思ったのであった。がんばろうっと。
田崎晴明を是非ともご覧あれ。
「ゆらぐ界面」をめぐる実験と理論
日本物理学会誌 2010 年 10 月号
「最近のトピックス」欄と言えば、(やっぱり、ぼくの若き敬愛する友人である)沙川さんたちの仕事を紹介した名解説
田崎晴明も忘れてはいけない!
「悪魔」との取り引き:エントロピーをめぐって
日本物理学会誌 2011 年 3 月号
(どちらも「最近のトピックス」欄のために書いたのだが、前者はいわば研究の現場を取材するスタイルであり、後者は歴史的エピソードの中で研究の意義と結果を浮かび上がらせるスタイルなのですよ。)
さて、大晦日。
普通は、「もう今年も終わりか、一年なんてあっという間だったなあ」と書くのだろうけど、ぼくは、今年は長く感じた。 いろいろなことがあったからだと思う。 そして、(アホみたいだけど)かなり必死でがんばったからだとも思う。
外国へはまったく行かなかったけれど、日本国内で 4 つの国際会議に出席した。
なんと言っても大きかったのは 7 月から 8 月にかけてやった、ぼくらの数理物理の会議(7/29, 8/3)。 大変だったけど、素直に楽しいお祭りだった。暑かったし、夏祭りだよね。
夏祭りと言えば、その少し前にも京都に行って、若い人たちが主催する情報と統計力学の国際会議にもガチで参加した(7/13, 7/15)。あれも楽しかったなあ。祇園祭の鉾にまで登ったし。
あとは、アジア諸国の統計物理の国際会議(10/22, 10/26)、横浜での熱測定の国際会議(10/28, 10/29)があったんだ。
それ以外だと、国際会議ではないけれど、目立つところでは、基礎物理学研究所創立 60 周年記念イベントや学会でシンポジウムもあったなあ。忘れかけていた。 このあたりは、9 月の終わりの日記にまとめて書いてあるね。
そうそう。思い返せば、今年のお正月には、ちょっと贅沢して温泉旅行に行き、風呂に浸かりながらボース系の量子磁性のことを考えていたんだ(1/6 の日記)。 あれも、その後、話が進んで形になり、論文ももうずっと前に出版されてしまった。
さらに、量子系で統計力学や熱力学を基礎づける路線は、3 月(3/10, 3/27)に昔の話の「リメイク版」を発表した(ただし、この話はレターで短くまとめるべきではないと判断して、PRL からは(レフェリーレポートが戻る前に)引っ込めて、長い論文を準備中)のを契機に、かつての共同研究者でもある親友の原が参入し、怒濤の勢いで新しいアイディアや数学的な攻略法を提案してくれて、すごい勢いで進んでいる。 論文はすでに一つ出ているし、今も、二つ目の仕事の論文を準備中。
夏学期の駒場での講義をきっかけに、長年、興味を持っていたマックスウェルデーモンに関しても、自分ありに、ちょっとだけ整理をして、これもなかなか楽しかった。 論文は、(別に偉大だともすごくオリジナルだとも思わないけど)まあ PRL に載っておかしくない水準だと思うんだけど、最初のレフェリー運が悪かったので、未だ査読中。 そうそう。自律デーモンに向けた未発表のノートも書いたなあ。
あとは、長年やり続けている SST(非平衡定常熱力学)については、数理物理の論文をずっと書いている。 最後になって共同研究者と議論した末、新しい定理を一つ加えた。 さらに、もう一つ例題を付け加えることになって、今まさに検討中。
特に、8 月の集中は異常にすごかった(8/30)し、11 月以降(11/7, 12/6) は講義などの日常をこなしながらやっている割には十分にがんばったと思っている。これは今も続いているのだけどね。
というわけで、年明けも、体調を崩さないように気をつけつつ、楽しくやっていこうと思います。
うん。これでこそ大晦日。
では、みなさん、よいお年を。