『解説がくわしいドイツ語入門』趣旨
岡本 順治『解説がくわしいドイツ語入門』 (2014)、白水社
2013年春、きちんとしたドイツ語の入門書を書いてくれませんか、という依頼を受けました。 しばらく前から、中級ドイツ語の解説を書きたいと思っていたので、 当初は入門書(=初級)を書くつもりはなかったのですが、説得されてしまいました。
そもそも、ドイツ語の教科書として『ドイツ語文法へのプロローグ』(郁文堂)が出版されたのが 2004年。 あとは、『独検対策準1級問題集』(白水社)、『独検対策2級問題集』(白水社)が教育関連で出してもらった本です。 郁文堂の本は教科書なので、普通に本屋で購入できるものではないので、 ドイツ語学習のための参考書という形で入門書を書くのは無意味ではないかな、 と思うに至りました。
書き始めてみると、『ドイツ語文法へのプロローグ』の時のコンセプトが基本にあるので、 参考書として個性を持たせるためにはどうしたらいいのか、悩みました。 結果的には、以下に示す「著者からのひとこと」(献本に添えた言葉の一部)に今回の本の特徴があります。
誤植情報: ☞ 『解説がくわしいドイツ語入門』Errata
裏の話: ☞ 『解説がくわしいドイツ語入門』裏の話
LaTeX の話:☞ 『解説がくわしいドイツ語入門』LaTeX
著者からのひとこと
著者からのひとこと
ドイツ語の入門書・参考書を書いて欲しいとの要望を受けて、本書を作りました。
この本は、「理解」、「体感」、「習慣化」 をキーワードにしました。
ドイツ語の「仕組みを考え」、「自分で発音し聞く」ことで「慣れる」という意味を込めています。
私は、外国語の学習はおしなべて難しいものだと思います。
「ドイツ語の学習も簡単じゃあない」(=手ごわい)と思います。
それをただ「易しい」とか「楽しい」と主張することは、私にはできません。
基本的に外国語の勉強には
(1) 文法を理解すること、
(2) こつこつと続けること、
(3) 辞書は自分でひくこと、が重要だと思っています。
これらは、ごく常識的なことです。
でも、昨今は「あたりまえのことをやらないで済むのがお得だ」
という考え方が広まっています。この考え方に私は欺瞞を感じます。
本のタイトルは、編集の方が考えて下さったものです(私は、『3K ドイツ語』と呼んでいました)。
実は、まだ説明しなければならないと思ったことがたくさんありました。
最終的には、残念ながら、コラム、練習問題、解説の一部などを削りました。
この本の「売り」は例文 です。
今までの教科書や参考書にないような、
生(なま)の例文と思えるようなものをできるだけ採用しました。
残念ながら、完璧と言うには程遠いところがありますが、これからも改良を重ねていく所存です。
[...]
2014年3月
著者 岡本 順治
補足
もう少し説明すると、「まえがき」に書いてあるように(帯の裏にも同じことが書いてありますが)、 以下の 3 点をこつこつと積み重ねることが重要だと思っています(どれをとってもあたりまえのことです)。
- ドイツ語の仕組みを考え、理解すること
- 例文を発音してドイツ語を体感すること
- ドイツ語の表現を繰り返し読んで書いて習慣化すること
「外国語の勉強は暗記に尽きる」と私は思っていません。 仕組みを理解していないで、ただ暗記しているのでは応用がききませんから、 挨拶程度の簡単な会話ができても、そこから先へは進めません。
「外国語を学ぶのは手強い」ことだと私は思っています。 発音も違うし、単語も違うし、文法も違う、そして、言語の背後にある文化も歴史も違うからです。 こつこつと時間をかけて学びましょう。 続けて勉強するのは大変ですが、 少しずつ理解できるようになります。 そうすると、面白さも分かってきます。
「まえがき」にも書きましたが、「外国語の学習は、体を動かすこととつながっています」。 具体的には、声帯、口、鼻、舌を動かしています。 体を動かすだけでなく、耳を使って音を聞きますし、 文字を書く時には目で見て、手を動かします。 このように、身体を動かすことをおっくうがらずにやること、 これはとても重要です。 誰でも最初は、うまく発音できませんし、聞いても理解できません。 少しずつ慣れることが必要です。だんだんとできるようになります。
そんなことを考えて、本書の中には、いろいろな例文が入っています。 最初の方にある発音練習のところでは、 単語の羅列ではなく、該当の音を含む単語の入った例文が使われています。 中には、ドイツ語の早口言葉やことわざも入っています。 うまく発音できないものは、何回も発音して「体で慣れ」て下さい。
分からない単語は、辞書で調べましょう。 辞書をひくことで、いろいろな発見があり、理解が深まります。
しつこいようですが繰り返します。 「短期間で外国語が身につく」とか、「簡単に外国語ができるようになる」 なんていうことはありません。 そもそも、「外国語が身につく」とか「外国語ができる」というのがどのようなレベルを指すのか、 考えるべきです。 確かに挨拶程度ができるレベルなら、短期間にできると思います。 でも、ネイティブの人の話していることがだいたい理解でき、 自分で考えていることがある程度まで表現できるようになるのには、 それなりの時間と努力が必要です。
これは外国語の学習に限ったことではありませんが、 「短時間に簡単にできる」という誘い文句にのらないように。 一般的に、世の中にそんなに甘い話は無いのです。
「3K ドイツ語」について 11. Mai 2014
「3K」というと悪いニュアンスのある省略語ですが、
私は、それを逆手にとって良い意味を与えようと当初企画しました。
その時考えたのは、klar, kompakt, kompositionell
でした(「明快、コンパクト、構成的」)。
その後、日本語で考えたのは、
「1. 計画的に、 2. きちんと、 3. きれいに 積み上げる。」という標語です。
このようなコンセプトで、新たなドイツ語初級参考書を考え始めました。
最終的には、「理解、体感、慣習化」という3つの標語に変わってしまいましたが、 ファイル名は 3kd.tex として進めました。
原稿
本書の原稿は、LaTeX で書かれました。 ただし、LaTeX で書いた原稿をそのまま反映させて本にした、ということではありません。 可能性はあったのですが、私にはそこまでの時間がとれない、 と思えたので辞退しました(印刷屋さんには、LaTeX 原稿と、PDF 出力を間接的に渡しました)。
従って、デザインは編集の方が行い、組版は印刷屋さんが行いました。 いろいろな提案があり、受け入れたところもある一方で、 受け入れられないとして拒否した部分もあります。 校正の段階で出てきたデザインと組版を見て、 それに合わせて LaTeX 原稿も書き換えて行きました(後追いしたわけです)。 後追い原稿を作るのは大変でしたが、 いろいろな LaTeX パッケージの使い方の勉強になりました。
いつものように Vine Linux 6.2 の LaTeX を使いました。 具体的には TeXLive 2009 で、 文字コードは utf-8、 GNU Emacs 23.3.1 で作業していました (その後、TeXLive 2013 に移行してしまいました)。
最終的に出来上がった本と LaTeX 原稿は一致していません。意図的に同じにしていない理由は、 「ハイパーレファレンス」(hyperreference) を使っているからです。 PDF 原稿では、 リンクをクリックするといろいろなところに飛べる(跳べる?)ようになっています。 本当は、これにあたることが紙の本でも実現できるとよかったのですが、 もちろん現在のところ不可能です。 似たようなことができるように、参照関係を明示したかったのですが、 部分的にしかできていません。 本来は、リンクでとべると参考書の価値は上がると思います。
時間がとれれば、部分的にどのような組版をしたのか、 公開したいと思います。
でも、その前に誤植情報の公開が先です。 『解説がくわしいドイツ語入門』誤植情報 をご覧ください。